公開情報を使った栄養管理

このページでは公的なデータのみを利用し,必要とされる栄養成分の量が計算ができること,その考え方をご紹介します.
利用するデータは,「日本人の食事摂取基準」,「食事バランスガイド」,および「日本食品標準成分表」です.

データベースや表計算ソフトを使えば,個人でも栄養管理ができます.
データの入力や処理の手間を省くとか,より付加価値の高い管理をするには,種々の出版物やソフトウェアが利用できます.

インフォメーション

ここで利用している公開情報

日本人の食事摂取基準

各栄養素の必要量は,厚生労働省の健康・生活衛生局が実施する検討会等でまとめられています.
最新の報告書は,日本人の食事摂取基準(2020 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書で,PDF 形式が利用できます.
現在,2025 年版の策定検討会が進められているとのことです.

食事バランスガイド

農林水産省の健全な食生活の実現で,「食事バランスガイド」が公開されています.これは厚生労働省と農林水産省が作成したもので,『1日に,「何を」,「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考にしていただけるよう,食事の望ましい組み合わせとおおよその量をイラストでわかりやすく示したものです』と書いてあります.

食品成分データベース

食品の成分については,文部科学省が日本食品標準成分表・資源に関する取組:文部科学省で取りまとめており,日本食品標準成分表・資源に関する取組:文部科学省で Excel 形式と PDF 形式が公開されています.また,「食品成分データベース」としても公開されています.ここでは後者の「食品成分データベース」を利用します.

目次(ページ内リンク)


考え方
製品
「日本人の食事摂取基準」から
「食事バランスガイド」から
「食品成分データベース」から

考え方

利用している公開情報を挙げた時点で見え見えなのですが,考え方を記します.
後のセクションでは,具体的な数字を挙げて,5 の途中まで試算します.

  1. 「日本人の食事摂取基準」から,自己の性別や年齢等に応じて,必要な食品成分の量を抜粋する
  2. 「食事バランスガイド」を参考にして,摂取すべき食材のおおよその量をリストアップする
  3. 「食品成分データベース」で,摂取すべき食材について食品成分の含量等を調べる
  4. データベースあるいは表計算ソフトを使い,必要量と摂取量とを比較検討する
  5. 過不足している食品成分については,食材を加減して再計算
  6. 得られた食材を基にして,献立を考える

問題点

上の考え方では問題が山積みです.例えば,


私は趣味として Linux + Apache + MariaDB + PHP で栄養管理データベースを作成して利用しています.
データは,「食品成分データベース」から必要なものを入手しています.
Excel 形式が公開されているので,表計算ソフトを使うという手もあります.始めるには,データベースより敷居が低いと思います.
こういった作業が面倒なので栄養管理をしない,というわけにも行きません.
一つの回答が後述する「食事バランスガイド」の利用であり,別の回答が製品の利用です.

製品

このサイトのポリシーとは異なり,オープンかつフリーではありませんが,より簡便で高付加価値が期待できます.
特に,厳格な栄養管理を必要とされる方にとって有用かもしれません.

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…と,状況を整理した上で,公開情報を使った栄養管理の作業を進めます.

「日本人の食事摂取基準」から

このセクションでは,「日本人の食事摂取基準」から必要な食品成分の量がピックアップできることを示します.

高齢者(65歳〜),乳児および小児(〜17歳),妊婦と授乳婦については一覧表が載っているので,ピックアップ作業は不要です.
その他の人については,各成分を解説した章の末尾に載っている一覧表から数値を拾う必要があります.
一覧表は年齢別男女別に区分けされており,区分けごとに必要量や目標量が記されています.

摂取基準の表を読むための術語が,総論の「1─3 指標の目的と種類」で解説されています.要約して引用します.

  1. 推定平均必要量:半数の者が必要量を満たす量
  2. 推奨量:ほとんどの者が充足している量
  3. 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量.十分な科学的根拠が得られず,推定平均必要量と推奨量が設定できない場合に設定
  4. 耐容上限量:過剰摂取による健康障害の回避を目的として設定される

目安量については,「必要なエネルギー量を確保した上でのバランスとすること」とか「おおむねの値を示したものであり,弾力的に運用すること」といった注釈が付いています.
なお,「日本人の食事摂取基準」を読むと,必要量が厳密には不明の場合が多々あります.本文や文献を見ると海外の文献を参考にしている場合も多いです.
これは,ヒトでは実験できないことなどに起因していそうです.
より厳密な研究は研究者に任せるとして,いろいろ問題があると理解した上で,「日本人の食事摂取基準」を栄養不足に陥らないようにするための指標だと捉えておきます.

50〜64歳男性についての一覧表を作成してみます

主だった成分をピックアップしました.煩雑になるので,アミノ酸スコアなど省略した項目があります.

エネルギー

身体活動レベル I身体活動レベル II身体活動レベル III
2,200 kcal/日2,600 kcal/日2,950 kcal/日

たんぱく質

推定平均必要量推奨量目標量
50 g/日65 g/日14〜20 % エネルギー

脂質

脂質の目標量飽和脂肪酸の目標量n─6 系脂肪酸の目安量n─3 系脂肪酸の目安量
20〜30 % エネルギー7 % エネルギー以下10 g/日2.2 g/日

炭水化物と食物繊維

炭水化物の目標量食物繊維の目標量
50〜65 % エネルギー21 g/日 以上

エネルギー産生栄養素バランス

たんぱく質脂質飽和脂肪酸炭水化物
14〜20 % エネルギー20〜30 % エネルギー7 % エネルギー 以下50〜65 % エネルギー

ビタミンとミネラル

-推定平均必要量推奨量目安量耐容上限量備考
ビタミン A(μgRAE/日)650900-2,700μgRAE はレチノール活性当量.これを計算する式は省略
ビタミン D(μg/日)--8.5100-
ビタミン E(mg/日)--7.0850-
ビタミン K(μg/日)--150--
ビタミン B1(mg/日)1.11.3---
ビタミン B2(mg/日)1.21.5---
ナイアシン(mgNE/日)1214-350NE はナイアシン当量 = ナイアシン + 1/60 トリプトファン
ビタミン B6(mg/日)1.11.4---
ビタミン B12(μg/日)2.02.4---
葉酸(μg/日)200240-1000-
パントテン酸(mg/日)--6--
ビオチン(μg/日)--50--
ビタミン C(mg/日)85100---
ナトリウム(Na, mg/日)600---食塩相当量で 7.5g/日未満
カリウム(K, mg/日)--25003000 以上-
カルシウム(Ca, mg/日)600750-2500-
マグネシウム(Mg, mg/日)310370---
リン(P, mg/日)--10003000-
鉄(Fe, mg/日)6.57.5-50-
亜鉛(Zn, mg/日)911-45-
銅(Cu, mg/日)0.70.9-7-
マンガン(Mn, mg/日)--4.011-
ヨウ素(I, μg/日)95130-3000-
セレン(Se, μg/日)2530-450-
クロム(Cr, μg/日)--10500-
モリブデン(Mo, μg/日)2530-600-

「食事バランスガイド」から

食事バランスガイド」の適量と料理区分

このセクションでは,「食事バランスガイド」を参考にして,食材のたたき台を作成します.
このコンセプトは『「日本人の食事摂取基準」を満たす簡易法』といった感じなので,類似のものは他にもあります.いわゆる「1 日 30 種類の食材」とか,「野菜 400g/日」 などです.
これらは,(必要量が厳密には不明確な)栄養を摂取するための簡易的な(== 計算の労を省いた)指針の一つとして設定された手段です.
厳密に設定されたものではない,ということをわきまえておく必要があります.現に,このページの後半で種実類を追加しています.
「食事バランスガイド」も含め,目的と手段を取り違えないようにしたいものです.

右に示している画像はご覧になったことがあると思います.
「食事バランスガイド」について:農林水産省から引用しました.そのページと同じサイズに縮小して表示しています.
必要なら画像を新しいタブで開くなどの操作で原寸大で表示できます.
また,画像はクリッカブルマップにしており,クリックすると「食事バランスガイド」の適量と料理区分:農林水産省にジャンプします.

料理区分を利用します

農水省のページには,「食事バランスガイド」は,『1日に,「何を」,「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考にしていただけるよう,食事の望ましい組み合わせおおよその量をイラストでわかりやすく示したもの』と書いてあります.
生活していく上で,この「おおよその量」で充分であるとするなら,後述の計算はしなくてもよいのかもしれません.

このページでは,「食品成分データベース」を使えば量が計算できることを示すのが目的なので,「おおよその量」は使いません.
「食事の望ましい組み合わせ」は利用します.

食事バランスガイドでは,毎日の食事を 主食/副菜/主菜/牛乳・乳製品/果物 の5つに区分し,区分ごとに「つ(SV)」という単位を用いて量を説明しています.
素材の例を引用すると,

  1. 主食:主に炭水化物の供給源であるごはん,パン,麺,パスタなどを主材料とする料理
  2. 副菜:主にビタミン,ミネラル,食物繊維の供給源である野菜,いも,豆類(大豆を除く),きのこ,海藻などを主材料とする料理
  3. 主菜:主にたんぱく質の供給源である肉,魚,卵,大豆および大豆製品などを主材料とする料理
  4. 牛乳・乳製品:主にカルシウムの供給源である,牛乳,ヨーグルト,チーズなど
  5. 果物:主にビタミンC,カリウムなどの供給源である,りんご,みかんなどの果実及びすいか,いちごなどの果実的な野菜

これを参考にして,組み合わせのたたき台を作成し,「食品成分データベース」で成分を計算してみます.


「食品成分データベース」から

このセクションでは,たたき台として食材の組み合わせを作成します.
その組み合わせに含まれる栄養素を調べ,食事摂取基準を満たしているか確認します.
次いで,食材の組み合わせをバージョンアップし,食事摂取基準に近づくかを確認します.

食材の組み合わせ バージョン1の検索結果

食材の組み合わせ バージョン1

後で修正することを前提にして,「食事バランスガイド」の「食事の望ましい組み合わせ」を参考にし,5 種類の食材でたたき台の組み合わせを考えてみました.
たたき台とはいえ,豚肉が生のままです.また,一目でご飯が少なすぎるのが判ります.

  1. 主食:穀類/こめ/[水稲めし]/精白米/うるち米,100g
  2. 副菜:野菜類/(キャベツ類)/キャベツ/結球葉/生,100g(まあ,メジャーな野菜でしょう)
  3. 主菜:肉類/<畜肉類>/ぶた/[大型種肉]/ヒレ/赤肉/生,100g(相対的にたんぱく質が多そう == 脂身が少なそう.ビタミン B1 が多い,という理由で選択)
  4. 牛乳・乳製品:乳類/<牛乳及び乳製品>/(液状乳類)/普通牛乳,100g
  5. 果物:果実類/りんご/皮なし/生,100g

[表示成分選択] というボタンをクリックすれば,微量成分等が追加できます.
重量は,テキストエントリに初期値 100g として設定されています.ここではそのまま使っています.
画像は「食品成分データベース」での検索結果です.表示サイズを小さく設定しているので,必要なら画像を新しいタブで開くなどの操作をしてください.

たんぱく質,脂質,および炭水化物をエネルギーに換算する計数として,Atwater 係数(たんぱく質,脂質,炭水化物が,それぞれ 4、9、4 kcal/g)を使いました.

「日本人の食事摂取基準」のビタミンと「食品成分データベース」で表示されるビタミン成分を下のように対応づけました.現行法とは異なるかもしれません.
特定のビタミン活性を有する物質が何種類もあって,改訂時にビタミン当量の計算法が変わる場合があることに起因します.
すなわち,

計算結果は,このページ末尾の「エネルギーと成分のチェック表」のバージョン1列に示しています.
背景が薄緑色のセルは,だいたい充足していると見える項目です.ただし,この段階で炭水化物のエネルーギーバランスは無意味でしょう.
偏った食材の組み合わせでも,いくつかの成分は目標をクリアできました.
ビタミン B1,ナイアシン,セレンは豚ヒレ肉の寄与が,モリブデンは米の寄与が大きいです.

食材の組み合わせ バージョン2

食材の組み合わせ バージョン2の検索結果

もう少し食材を増やして再計算します.
緑黄色野菜を食べねばならない,ということでニンジンを.
「食事バランスガイド」にはナッツ類は記述されていませんが,n─3 系脂肪酸を狙って胡桃を.
あと,ご飯を 300g,キャベツを 200g にしてみます.すなわち,

  1. 主食:穀類/こめ/[水稲めし]/精白米/うるち米,300g
  2. 副菜:野菜類/(キャベツ類)/キャベツ/結球葉/生,200g
  3. 副菜:野菜類/(にんじん類)/にんじん/根/皮なし/生,100g
  4. 主菜:肉類/<畜肉類>/ぶた/[大型種肉]/ヒレ/赤肉/生,100g
  5. 牛乳・乳製品:乳類/<牛乳及び乳製品>/(液状乳類)/普通牛乳,100g
  6. 果物:果実類/りんご/皮なし/生,100g
  7. 種実類/くるみ/いり,20g

[検索]-[食品成分ランキング] と進めば,特定の成分が豊富な食材を検索できます.
画像はバージョン2の検索結果です.表示サイズを小さく設定しているので,必要なら画像を新しいタブで開くなどの操作をしてください.

計算結果は,「エネルギーと成分のチェック表」のバージョン2列に示しています.
背景が薄緑色のセルは,だいたい充足していると見える項目です(この段階でも摂取エネルギーが少ないので,エネルーギーバランスは無意味です).
期待通り,ビタミン A と n─3 系脂肪酸はかなり充足されました.
他にも,いくつかの項目で基準値に達しました.

まだ,エネルギーが目安量の半分以下なので,食材を加減する余裕は充分にあります.
最終的にすべての項目で基準に達することが当面の目標,ということになります.

エネルギーと成分のチェック表

エネルギー,たんぱく質,脂質,飽和脂肪酸の目標量は,目安量の列に記しました.

エネルギーと成分のチェック表
-推定平均必要量推奨量目安量耐容上限量バージョン1バージョン2
エネルギー--2,200 kcal/日-411921
たんぱく質50 g/日65 g/日--29.339.1
たんぱく質--14〜20 % エネルギー-28.517.0
脂質--20〜30 % エネルギー-17.79.9
飽和脂肪酸--7 % エネルギー以下-8.22.3
n─6 系脂肪酸--10 g/日-0.659.14
n─3 系脂肪酸--2.2 g/日-0.061.86
炭水化物--50〜65 % エネルギー-61.266.6
食物繊維--21 g/日 以上-4.713.8
ビタミン A(μgRAE/日)650900-2,70044680
ビタミン D(μg/日)--8.51000.60.6
ビタミン E(mg/日)--7.08500.61.4
ビタミン K(μg/日)--150-84170
ビタミン B1(mg/日)1.11.3--1.441.61
ビタミン B2(mg/日)1.21.5--0.440.55
ナイアシン(mgNE/日)1214-35014.217.9
ビタミン B6(mg/日)1.11.4--0.731.06
ビタミン B12(μg/日)2.02.4--0.80.8
葉酸(μg/日)200240-100077190
パントテン酸(mg/日)--6-1.953.04
ビオチン(μg/日)--50-7.312.3
ビタミン C(mg/日)85100--4486
ナトリウム(Na, mg/日)600---100130
カリウム(K, mg/日)--25003000 以上9201600
カルシウム(Ca, mg/日)600750-2500160250
マグネシウム(Mg, mg/日)310370--61130
リン(P, mg/日)--10003000400570
鉄(Fe, mg/日)6.57.5-501.42.6
亜鉛(Zn, mg/日)911-453.35.3
銅(Cu, mg/日)0.70.9-70.250.75
マンガン(Mn, mg/日)--4.0110.512.14
ヨウ素(I, μg/日)95130-30001717
セレン(Se, μg/日)2530-4502527
クロム(Cr, μg/日)--1050022
モリブデン(Mo, μg/日)2530-6003799