栄養管理からみた自給自足

公開情報を使った栄養管理では,通常の環境で生活するのに必要な栄養がどの程度必要なのか,計算ができることを示した.
この考え方を応用すれば,種々の条件での食生活をデザインすることができる.
このページでは,極端な条件を考えてみる.
すなわち,一人で自給自足で生活するに際して,栄養素を確保するのに最低でもどれくらいのリソースが必要なのか計算してみる.
冗談半分の設定であるけれど,食生活のデザインの訓練にはなろう.また,サバイバル物を含む種々の作品を検証するのにも役立つと思う.

利用するデータは,「日本人の食事摂取基準」,「作物統計」,および「日本食品標準成分表」である.
必要量は,概ね成人男性の値とする.
もちろん,このページの議論は現実的ではない.食材に限っても,収穫したら半年〜 1年貯蔵しなければならないという計算になっている.

インフォメーション

ここで利用している公開情報

目次(ページ内リンク)


エネルギー
たんぱく質
検証
まとめ

エネルギー

まず,エネルギー源となりそうな作物のパフォーマンスを比較してみる.
下の表では,食品成分データベースからエネルギーといくつかの成分を,作物統計から収量を拾い,両者を突き合わせている.
必要なエネルギーは 2200kcal/日とした.
品種や保存状態などは考慮していないので,大雑把な目安と捉えていただきたい.

穀類といも類によるエネルギー確保
食品廃棄率エネルギー水分たんぱく質脂質炭水化物灰分必要量必要量収量必要な面積
-%kcal/100g%%%%%g/日kg/年kg/10am2
穀類/こむぎ/[玄穀]/国産/普通032912.510.83.172.11.6669244400610
穀類/こめ/[水稲穀粒]/玄米034614.96.82.774.31.2636232500460
穀類/とうもろこし/玄穀/黄色種034114.58.6570.61.36452361000 → 300780
いも及びでん粉類/<いも類>/(さつまいも類)/さつまいも/塊根/皮なし/生912765.61.20.231.9117326322200290
いも及びでん粉類/<いも類>/(さといも類)/さといも/球茎/生155384.11.50.113.11.24151151513001170
いも及びでん粉類/<いも類>/じゃがいも/塊茎/皮なし/生105179.81.80.117.31431415753100 → 6200510 → 250

トウモロコシ

脱穀の必要が無いので,このページでは,穀類としてトウモロコシを採用する.
作物統計によると,トウモロコシの収量は 10a あたり 1000kg である.
これは,いわゆる実だけでなく芯を含む値なのであろうと思う.そこで,実の収量をその 1/3 程度と想定した(実際は異なるかもしれない.実験の必要があろう).

収量を 300kg/10a としてみると,780m2 == 28m 四方 のトウモロコシ畑を確保すれば,夏に 236kg のトウモロコシが収穫できる.236kg を 365 日 で割ると,1 日あたり約 650g に相当する.
毎日 650g のトウモロコシを食べれば,少なくともエネルギーは確保できる.
なお,後で卵や大豆等の食材を加えるので,数字はもっと小さくて済むはずである.

サツマイモ

エネルギー収量に関してパフォーマンスが良いいも類は,サツマイモである.
収量のみの計算では,290m2 のサツマイモ畑があればエネルギーが確保できることになる.
このページでは,いも類としてサツマイモを採用する.

290m == 17m 四方 のサツマイモ畑を確保したとすると,秋に 632kg のサツマイモが収穫できる.632kg を 365 日 で割ると,1 日あたり約 1.7kg に相当する.
毎日この量のサツマイモを食べるのは大変そうである.

じゃがいも

じゃがいもは春と秋に収穫できる.
そこで表では,収量を倍に,必要な面積を半分にした.
ただし,相対的に低カロリーである.例えば,じゃがいもだけでエネルギーを確保しようとするならば,1 日あたり約 4.3kg を食べる必要がある.
サツマイモより大変そうである.

じゃがいもの課題は,ソラニンやチャコニンによる健康影響:農林水産省に記されている.農林水産省のページでは FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会の評価として,「じゃがいもは食経験がある野菜であり,適切に栽培・収穫・流通・調理された,グリコアルカロイドの濃度が一般的な範囲(2〜10 mg/100g)のじゃがいもであれば,食べても健康上の懸念はないと考えられる」と引用している.
ただし,同じページには日本国内の食中毒事例も載っている.


たんぱく質

比較的簡単に確保できそうな気がしたので,大豆と卵を選択した.
前者は大豆イソフラボン含量,後者はコレステロール含量で摂取量が制限されるものとする.

卵の収量は日本養鶏協会のニワトリは1年間に1羽当たり平均何個くらい卵を産むでしょうか?に記されている.
「ニワトリ1羽は1年間に平均して約300個くらい卵を産みます」とのことである.雌鶏を 1 羽以上飼えば卵は確保できる.

卵の問題は,コレステロールであろう.
日本人の食事摂取基準では,「コレステロールに目標量は設定しないが、これは許容される摂取量に上限が存在しないことを保証するものではない。また、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満に留めることが望ましい」としている.ここでは,これに習うとする.

食品成分データベースで調べると,全卵 100g には,たんぱく質 12.2g,コレステロール 370mg が含まれていることが判る.
ここでは卵を,50g/日摂取するとする.卵 50g といえば,S サイズの卵 1 個程度であろうか.
たんぱく質の摂取量は 6.1g となる.

大豆

内閣府食品安全委員会の報告大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&Aに習うとする.すなわち,「大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限値は 70〜75mg/日(大豆イソフラボンアグリコン換算値)」.
同じサイトに,煮大豆 100g の平均含有量が 72.1g と記されている.
ここでは大豆を,100g/日摂取するとする.食品成分データベースで調べたところ,茹で大豆 100g のたんぱく質含量は 14.8g であった.

大豆 100g/日 は 36.5kg/年である.作物統計によると,大豆の収量は 160kg/10a.
これらの数値から計算すると,2.3a(15m 四方) ほどの大豆畑を確保せねばならないことになる.


検証

上の考察で,エネルギーとたんぱく質を確保する際の条件を示せた.
あとは,気候風土や好みによって品種や耕作面積を設定すればよい.
そこで,どの程度栄養素が満たせるか計算してみた.結果を表に示す.
主食としてのサツマイモよりトウモロコシを比べると,トウモロコシの方がたんぱく質と脂質に富んでいるので PFC バランスの面で有利である.逆にビタミン C はサツマイモの方が多い.

いくつかの栄養素が不足しており,PFC バランスもよいとは言えない.
背景を黄色で示した栄養素については,次のまとめセクションで少しだけ検討する.

ビタミン Aは,食品成分表からはレチノール活性当量の値を採った.同じくビタミン E は α-トコフェロールの,ナイアシンは,ナイアシン活性当量の値である.
食品成分表での「食品群名/食品名」は下のとおり.

栄養成分の試算
----- * 大豆 * トウモロコシ大豆 +
卵 +
トウモロコシ
 * サツマイモ大豆 +
卵 +
サツマイモ
栄養の目安----摂取量(g/日)10050 * 600750 * 15001650
栄養成分推定平均必要量推奨量目安量耐容上限量 * -- * -- * --
エネルギー--2,200 kcal/日- * 16367 * 20462276 * 18902120
炭水化物--50〜65 % エネルギー- * -- * -75.9 * -91.9
たんぱく質--14〜20 % エネルギー- * -- * -12.8 * -7.4
脂質--20〜30 % エネルギー- * -- * -17.8 * -7.6
飽和脂肪酸--7 % エネルギー以下- * -- * -1.5 * -1.4
たんぱく質50 g/日65 g/日-- * 14.86.3 * 51.672.6 * 1839.1
n─6 系脂肪酸--10 g/日- * 0.770.05 * 0.090.91 * 00.82
n─3 系脂肪酸--2.2 g/日- * 4.390.65 * 2.150.65 * 0.30.95
食物繊維--21 g/日 以上- * 8.50 * 5462.5 * 3341.5
ビタミン A(μgRAE/日)650900-2700 * 085 * 78160 * 30120
ビタミン D(μg/日)--8.5100 * 01.3 * 01.3 * 01.3
ビタミン E(mg/日)--7850 * 1.60.6 * 68.2 * 22.524.7
ビタミン K(μg/日)--150- * 76 * 013 * 013
ビタミン B1(mg/日)1.11.3-- * 0.170.03 * 1.82 * 1.651.85
ビタミン B2(mg/日)1.21.5-- * 0.080.16 * 0.60.84 * 0.60.84
ナイアシン(mgNE/日)1214-350 * 43.3 * 34 * 16.520.5
ビタミン B6(mg/日)1.11.4-- * 0.10.05 * 2.342.49 * 3.94.05
ビタミン B12(μg/日)22.4-- * 00.5 * 00.5 * 00.5
葉酸(μg/日)200240-1000 * 4124 * 170230 * 740800
パントテン酸(mg/日)--6- * 0.260.59 * 3.424.27 * 13.514.35
ビオチン(μg/日)--50- * 9.812.5 * 49.872.1 * 61.583.8
ビタミン C(mg/日)85100-- * 00 * 00 * 440440
ナトリウム(Na, mg/日)600--- * 170 * 1889 * 170240
カリウム(K, mg/日)--25003000 以上 * 53065 * 17002300 * 72007800
カルシウム(Ca, mg/日)600750-2500 * 7924 * 30130 * 540640
マグネシウム(Mg, mg/日)310370-- * 1006 * 450560 * 360470
リン(P, mg/日)--10003000 * 19085 * 16001900 * 710980
鉄(Fe, mg/日)6.57.5-50 * 2.20.8 * 11.414.3 * 912
亜鉛(Zn, mg/日)911-45 * 1.90.6 * 10.212.7 * 35.5
銅(Cu, mg/日)0.70.9-7 * 0.230.03 * 1.081.34 * 2.552.81
マンガン(Mn, mg/日)--411 * 1.010.02 * -1.02 * 6.157.17
ヨウ素(I, μg/日)95130-3000 * 010 * 010 * 1525
セレン(Se, μg/日)2530-450 * 213 * 3651 * 015
クロム(Cr, μg/日)--10500 * 00 * 00 * 1515
モリブデン(Mo, μg/日)2530-600 * 771 * 120200 * 60140

まとめ

いくつかの課題を簡単に考察し,食材と栽培面積ををリストアップする.
細かく計算することも可能であるが,ここでそれをしてもあまり意味がないであろう.

ビタミン A と C の補填

ある栄養成分を多く含む食材を検索するには,食品成分データベースで,[検索]-[食品成分ランキング] と進めばよい.
ここでは,ビタミン A をニンジンに,ビタミン C をピーマンに求める.必要な栽培面積が作物統計から得られるからである.
下の表が計算結果で,10m 四方のニンジン畑と 6〜7m 四方のピーマン畑があれば,これらは確保できそうである.

食材目的成分含量必要量必要量収量必要な面積
野菜類/(にんじん類)/にんじん/根/皮つき/生ビタミン A720μg/100g90g/日32.9kg/年3300kg/10a(冬)100m2
野菜類/(ピーマン類)/青ピーマン/果実/生ビタミン C76mg/100g112g/日40.9kg/年10600kg/10a(冬春)38.9m2

残りの課題

まだまだ,いろいろ不具合がある,

どのような生産生活になるか

このページでの計算結果を箇条書きにする.
面積は,畑を正方形にしたときの一辺の長さで記した.畑を耕すイメージがつかみやすいと考えたからである.
トウモロコシと大豆の数値は,ニンジン以下を摂取しない場合の値である.ニンジン以下を摂取すれば,もう少し小さくなる.

トウモロコシをサツマイモに変更する場合は,17m 四方の畑で栽培し,1.5kg/日摂取する.この場合,ピーマンからビタミン C を摂取する必要はなくなる.
貯蔵の問題は無視して,さらにいくつかの栄養成分の不足を認めてこれである.なかなか大変な作業量になりそうである.


参考書の検索

これらの本の著者は,このページで論じた程度のことは当然承知しています.
それをどう料理しているのか.さらに詳細に詰めるのか,エンタメ志向で切り捨てるのか,あるいは…